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お部屋に絵を飾りましょう
by 棚倉樽
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福島に生まれ青森に育つ。18歳で画家を志し上京。紆余曲折の末、50歳にして画業に専念。油彩&水彩の風景画・人物画に日々取り組んでいます 。
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青木繁展-2・「旧約聖書物語挿絵」編

『青木繁展』は約10年間の画業を年月を追って紹介していたのであるが、青木ほどその時の心境がはっきりと作品に表れている画家は少ないということをあらためて実感した。
気分が高揚している時や野望に燃えている時の作品は構図も色彩も躍動しているが、落胆や邪念を抱いている時の作品は全くと言ってよいほど魅力がない。

青木が初めて画壇に認められ世間の評判を得たのは、白馬会第八回展に出品した十数点におよぶ神話を題材とした小作品群であった。その魔力のようなものを放つ斬新な芸術作品に、主催者の黒田清輝はこの回から設けた第一回白馬賞を与えた。

『黄泉比良坂』 明治36年(1903)紙:色鉛筆、水彩 47.5×32.5cm
青木繁展-2・「旧約聖書物語挿絵」編_a0146758_2153338.jpg

これは第一回白馬賞を受賞した作品のひとつで、「古事記」のエピソードを題材にしている。亡くなったイザナミを追って黄泉の国に入ったイザナギが変わり果てたイザナミを見て驚き逃げ帰る場面。黄泉比良坂(よもつひらさか)とは黄泉の国への入口で、イザナギがそこへ怯えながら戻る姿を描いている。追い掛けるイザナミと黄泉の醜女の姿が不気味に躍動し、黄泉の国の暗さと黄泉比良坂附近の明るさのコントラストも見事だ。このような画風と題材の絵を見たことがない当時の人々にとって衝撃的だったであろう。

当時、日本の洋画界は明治初期洋画の流れをくむ原田直次郎や浅井忠が発足した「明治美術会」と、黒田清輝や久米桂一郎らが結成した「白馬会」に二分されていた。暗く沈んだ画風の明治美術会に対し、光溢れる情緒的な画風を推進する白馬会が反旗を翻した訳である。
青木の才能が黒田清輝の目に留まったことは、実に幸運であったと言える。
そして『黄泉比良坂』の翌年、白馬会第九回展に『海の幸』を出品、画家として最高潮期を謳歌するのである。

しかし、前回の記事に書いた通り『海の幸』は青木に幸をもたらさなかった。
困惑と苛立ちに押し潰されそうな二年間を過ごすのであるが、明治39年、思いも寄らぬ仕事が舞い込む。金尾文淵堂出版『旧約聖書物語』の挿絵である。

『ソロモン王とエルサレム』 明治39年(1906)板:油彩 23.4×32cm
青木繁展-2・「旧約聖書物語挿絵」編_a0146758_21542030.jpg

『ネプカデネザルとダニエル』 明治39年(1906)板:油彩 33.1×23cm
青木繁展-2・「旧約聖書物語挿絵」編_a0146758_21545714.jpg

これは文淵堂に依頼された八枚の挿絵のうちの二枚であるが、本展では八枚全てを展示している。挿絵といっても板に丁寧に描かれた油彩であった。私はこの挿絵群に最も感動した。青木の生き生きとした想像力に満ちている。色彩も光り輝いている。
日本神話に留まらずギリシャ神話や聖書の世界も探求していた青木にとって絶好の題材で、創作意欲が滲み出ている。さらに、百円という画料にも気持ちが高揚したであろうことが手に取るように分かる。
『海の幸』を頂点に青木繁芸術は衰退の一途を辿る、と言われているが、私にとってこの『旧約聖書物語挿絵』が青木の才能が爆発した最後の作品であると思えた。これ以降の作品には現在傑作と言われているものもあるが、本展で実際に観た限りでは青木繁本来の芸術性という意味では見劣りする作品ばかりであった。
つまり、冒頭に書いた通り青木は「その時の心境がはっきりと作品に表れている画家」で、『旧約聖書物語挿絵』以降の生活、精神、肉体はさらに行き詰まり、健全な創作活動が出来なかったのである・・・。

次回へつづく。。。。
by Patch_It_Up | 2011-08-28 02:36 | 青木繁 考 | Comments(0)
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