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福島に生まれ青森に育つ。18歳で画家を志し上京。紆余曲折の末、50歳にして画業に専念。油彩&水彩の風景画・人物画に日々取り組んでいます 。 facebookもよろしく→https://www.facebook.com/tarutana カテゴリ
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『マイ グランパパ ピカソ(Picasso, My Grandfather)』を読む
ネットオークションで本書を見つけ、副題の「とめどなく流れる涙 孫娘マリーナの目に映った“ピカソおじいちゃん”の真実」に惹かれ購入した。著者は、ピカソの最初の妻オルガとの間に生まれた息子ポールの娘、マリーナ・ピカソである。あの偉大なるピカソが孫にとってはどんなおじいちゃんだったのか。若くして天才と崇められ、これ以上ない富と名声を得、数々の女性遍歴を誇る怪物ピカソであったが、孫にとってはさぞや素敵なおじいちゃんであったのであろう。グランパパでもある私は、尊敬するピカソのほのぼのした素顔を期待して読み始めたのである…。
そして、期待は見事に裏切られた。いや、ピカソの知られざる実像を垣間みられたことは収穫であったのかも知れない。しかしとにかく、憂鬱にさせられた。ピカソの援助に頼り切る父ポール。ピカソ家の称号のみを生き甲斐とした母エミリエンヌ。そのような身勝手な両親に翻弄されるマリーナと二つ年上の兄パブリート。そしてピカソはマリーナの家族を徹底的に拒絶する。後に起こる崩壊と悲劇が、マリーナのピカソに対する憎悪に満ちた言葉で赤裸々に語られている…。 全ての元凶は祖父ピカソにある、と言っても過言ではない程にマリーナの言葉は激しく陰鬱である。特に、自殺という形で兄パブリートを失ったことは、それが参列を拒否されたピカソの埋葬の二日後であったために、マリーナの心を決定的に打ちのめす。そして、後にマリーナは14年間の精神分析治療を受けることになる。 マリーナの視点から一方的に語られる悲劇に引き込まれ涙した読者も多いようであるが、私は読中にピカソ自身はマリーナと接した(接しなかった)時期にどのような状況、心境にあったのかを考えてみた。マリーナの家族を拒絶した理由がそこにあると思いピカソの年譜を追って推理してみた。そして、私の推理がある程度正しいことを本書の終盤で知る。マリーナは、14年間の精神分析治療の末に彼女が抱いていたピカソのイメージが歪んでいたことを理解したと語るのである。本書は、そこに辿り着くまでのマリーナの心の苦行録であることに胸を打たれた…。 1952年以降、ピカソはフランソワーズ・ジローが去った後に納まったジャクリーヌ・ロックに支配されていた。彼女がマリーナのみならず全ての人々をピカソに近づけなかった。そして、そのことによってピカソはさらに創作に没頭できたことは事実である。 若かりし頃のピカソは、1908年にかの洗濯船のアトリエで「アンリ・ルソーを讃える夜会」を主催するなど社交的でイイ奴だったような印象がある。しかし晩年は、マリーナも言っているが、自分に群がってくる連中などをひとまとめに「蛙の池」と呼び、独りになって最後の力を制作に注げるようにあらゆる人々を遠ざけるのであった。 先日観たヘミングウェイを描いた海外ドラマのクライマックスで、「優れた芸術作品とは孤独から生まれる。よって芸術家は孤独でなければならない」といった意味のことをヘミングウェイが語るのであるが、まさに晩年のピカソはそれを実行したのだなと思うのである。 祖父ピカソを理解したマリーナであったが、決して許した訳ではなかった。他の血縁者と違い、彼女はピカソの遺産を相続することに全く興味を示さなかった。ピカソの呪縛から逃れたかったのである。しかし行きがかり上、莫大な遺産を相続する。さて、彼女はどうしたか…。ベトナムの孤児を養子にしたことをきっかけに、ホー・チミン市に恵まれない子供達のための福祉施設を建設するのである!。 彼女が心の苦行の中で求めていたものは「愛」であったのであろう。祖父ピカソに対しても、欲しかったのは「おじいちゃんとしての優しい愛」であったのだ。得られることのなかった愛の代わりに得たピカソの遺産を洗浄して、親の愛情も家庭の温かさも知らない恵まれない子供達を救うために使ったのである。マリーナが設立した基金は援助の活動を今も広げている…。 私は、これほどまでに読中の嫌悪感から読後の感動に気持ちを変えられた本に出会ったことがなかった。マリーナが最後に成し得た業績にあまりにも心が熱くなったために、本来興味を持つべき文中に植え込まれたピカソの知られざる側面を摘み取るには時間がかかりそうである(笑)。。。。
by Patch_It_Up
| 2013-07-13 19:40
| 本・映画・音楽
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