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お部屋に絵を飾りましょう
by 棚倉樽
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福島に生まれ青森に育つ。18歳で画家を志し上京。紆余曲折の末、50歳にして画業に専念。油彩&水彩の風景画・人物画に日々取り組んでいます 。
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新藤兼人『濹東綺譚』

八幡の「大黒家」でカツ丼を食べて以来、どうしても映画『濹東綺譚』を観たくてヤフオクで探したらあったよ。レンタル落ちビデオ、なんと300円(送料290円)で落札。
早々に商品到着。見よ! このパッケージを!!。
新藤兼人『濹東綺譚』_a0146758_1225086.jpg

ん〜、この役は津川雅彦以外では考えられないな。しいて言えばマイケル・ダグラスか(笑)。娼婦役の墨田ユキ…その凹凸のない真っ白な肢体は、まさに南極2号的である。「本番」が当たり前になる以前のAV女優、八神康子も登場。あの、クビレの無いデロンとしたボディが何とも卑猥だ。懐かしかったねぇ〜。
こう書くと、エッチなシーンばかりに気を取られやがってと呆れられそうであるが、パッケージ裏の解説に、「文学史上に残る名作の映画化で日本映画のエロチシズムを結集させた新藤兼人監督の超一級娯楽作品」とある。つまり、この映画はエロチックな描写が重要な作品なのだよ。

新藤兼人監督の著書『いのちのレッスン』に、永井荷風のことと映画を撮る経緯が書いてある。
それによると、濹東綺譚が朝日新聞夕刊に連載された昭和12年、新藤監督は25歳でまさにリアルタイム。そして私娼の町「玉の井」に興味を持ち訪れている。
感想が面白い…
「ドブ川の悪臭がただよう路地は単なる性の市場で『濹東綺譚』に描かれたお雪のような美しい女がいるわけもなかった」
ん〜、なんか永井荷風が気の毒になるなぁ(笑)。この時点で、新藤監督は荷風をさほど評価しておらず、木村荘八が描いた挿絵に魅かれて玉の井に足を踏み入れたと書いてある。その思いは変わらず、映画のタイトルバックに挿絵を使っている。
新藤兼人『濹東綺譚』_a0146758_1234177.jpg

調べたら、濹東綺譚のために描いた挿絵の原画35点は東京国立近代美術館に所蔵されているそうだよ。所蔵展があったら是非観たいよね。

新藤監督の濹東綺譚への興味はここで一旦終わっているのだが、なんと70代になって荷風の『断腸亭日乗』を読んで、「日記というよりも大河小説の趣があった。みごとな文章と筆力に圧倒された。その徹底した自己のみを貫く生き方に感動し、三回も読んだ」と改めて荷風に取り憑かれたのである。
そして、荷風を知るために玉の井(東向島)から浅草へ行き、荷風行きつけのアリゾナ食堂へ入り、京成八幡まで行って大黒家のカツ丼を食べるのだ。
荷風に共鳴した新藤監督は、79歳にして『濹東綺譚』を撮る。
「25歳のときに出会った小説『濹東綺譚』は、50年以上を経て、ようやくわたしの血肉になったのである」
芸術家とは、時を超えてダイナミックに融合し創作のエネルギーを爆発させるものだな、と感動した。

この映画は、濹東綺譚の映画化というよりも『断腸亭日乗』の流れに中心的なエピソードとして濹東綺譚を挿入している。よって、全体のストーリーの構成上、主人公とお雪の色恋の行方も違った描き方をしている。
新藤監督が描きたかったのはあくまでも断腸亭日乗にある荷風像、荷風の生き様(死に様)であったことが分かる。
劇中で、老いを感じて悲観する荷風が綴る一節がある。それは荷風文学を象徴する言葉でもある…。

芸術の制作欲は肉欲と同じきものの如し
肉欲老年に及びて薄弱となるに従い
芸術の欲もまた冷めゆくは当然のことならん

この時荷風58歳であるが、通人であればこのまま女房に埋もれて冷め切ってゆく年齢であろう(笑)。ところが荷風は25歳の娼婦お雪との色恋に燃え上がる。
そして制作欲も取り戻し、濹東綺譚を書き始めるのである。

俺は芸術家ではないが、ふと「性欲こそが全ての原動力」と思う時がある。
例えば…先般の入院において、回復するに連れて看護士に興味が湧いてきた。
だが、実はこれは逆で、若くて可愛い看護士に気に入られる患者になろうとする気持ちが、生命力を回復させたのではないかと思うのだ。
見舞いに来た友人たちも、「この病院の看護婦って揃ってるよねえ」と声を揃えて言っていたのであるが、もしかして俺のような患者の心理を考えての病院の意図なのかと暇に任せて考えたりもした(笑)。
恋愛にしてもそうだ。やはり好きな女がいると、全てが上手くいく…ような気がする。

新藤監督が『濹東綺譚』の撮影に入る時に、初対面の津川雅彦にこう言ったそうだ。
「荷風は女に性欲を感じなくなったら、もう小説は書けなくなると思っていたんですよね」。
すると津川雅彦は、「監督はどうなんです?」と返した。
新藤監督79歳の答えは、「性力はありませんが、性欲はあります」だった。
素晴らしいのは、今年の初めにTVのドキュメンタリーで、95歳になった今でも同じことを言っていた・・・。

映画では戦前の風俗がリアルに表現されているが、それも新藤監督のような実体験のある人々が存命していればそこ作り上げられるものだ。
置屋の二階の三畳間で、客と娼婦が窓に腰を掛けて氷小豆を食べるといった風情のある光景を、もうじき語ることの出来る世代がいなくなってしまう。
「風情」という言葉さえ死後になりそうな…。
荷風にしても新藤監督にしても、その性愛の有り様にも「風情」を感じる。
映画の中でも荷風とお雪の何とも風情のあるシーンがあった。
新藤兼人『濹東綺譚』_a0146758_1244198.jpg

置屋で朝飯を一緒に食うのである。
何気ない風景であるが、夫婦ものでもない二人が朝の光に包まれて楽しそうに朝飯を食うのであるよ。
ああ、俺は何年女と朝飯を食っていないだろう。大した恋愛をしていないことが分かる(笑)。
荷風はお雪を惚れさせて、嫁にして欲しいと迫られた時点で身を引く。そして一人のまま満足して死んでゆく。
新藤監督は乙羽信子さんへの変わらぬ恋心を抱えて生き続けている。
さて、まだまだ若造の俺はこれからどんな色恋をしてゆこうか…。

映画の最後、死の迫った荷風が「大黒家」でカツ丼を食うシーンがある。
残念なことに、お銚子が一本添えられていなかった。。。。
新藤兼人『濹東綺譚』_a0146758_1253724.jpg

by Patch_It_Up | 2008-11-30 11:52 | 本・映画・音楽 | Comments(0)
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